. メディア対話記事その2 - ページ 3

 2012年7月2日月曜日13時から開催されたメディア対話分科会。前半部では「日中両国民の相互信頼をどう向上させるのか」というテーマのもと、「日中共同世論調査」に基づく活発な議論が交わされました。

 前半部の日本側パネリストとして、工藤泰志氏(認定特定非営利活動法人言論NPO代表)、小倉和夫氏(東京2020 オリンピック・パラリンピック招致委員会評議会事務総長、前国際交流基金理事長)、下村満子氏(ジャーナリスト、元「朝日ジャーナル」編集長)、塩崎恭久氏(衆議院議員、元内閣官房長官)が出席。中国側パネリストとして蒋効愚氏(全国政治協商会議委員、教科文衛体委員会副主任、北京オリンピックシティ発展促進会副会長)、程曼麗氏(北京大学ジャーナリズム・コミュニケーション学院教授、副院長)、高岸明氏(中国日報副総編集長)が出席しました。

 日本側の司会は園田矢氏(ジャーナリスト、元日本放送協会解説委員)、中国側の司会は胡飛躍氏(中国医科科学院医学情報研究所研究員/教授)が務めました。

 初めに、フォーラムの開催に合わせて実施された世論調査の結果から、工藤および程氏より基調報告が行われました。新たに今年から「領土問題の有無」や「海洋における軍事紛争の可能性」についての設問が追加され、両国の相互理解がどの程度であるかを踏まえ、議論が開始されました。 

 工藤は尖閣諸島問題を含めた領土問題に触れ、「メディア報道に引っ張られた可能性」を示唆しました。また、議論を進める上で「"日本は軍国主義だ"と思う中国国民が10%近く増えた原因は何か」そして「互いの国から見た報道や言論の自由―70.8%の中国国民が"日本に報道の自由がない"と思うのは何故か」という2点の疑問点を挙げました。

 程氏は「中日間の歴史問題や領土問題、海洋資源問題によって、中国の若者が日本人に抱くマイナスイメージが上昇している」と示しました。一方で、「両国国民の約8割が、中日関係は重要だという認識を持っている」ことを挙げ、これは「両国の友好関係を促す重要な数値である」と述べました。このことから、中日の友好関係を深めるため、3つの提言を行いました。「まず両国政府は、留学生や民間の人材交流について、友好的な環境を作らなければならない。また、歴史的問題は理性的な感性をもって解決していくべきである。両国の国民はメディアを通して互いの国の情報を入手し、理解していることに鑑みれば、これからのメディアの在り方を議論することが友好関係の発展を促す重要なものとなる。」と述べました。

 基調報告を受け、まず小倉氏が工藤の問題提起に対して発言しました。小倉氏は「原因は中国の大国化にある。大国化した中国の言動に対して日本は脅威を覚え、感情的な反応を呼んでいる。したがって、国民間で本当の理解が大事なのではないか。」と述べました。

 蒋氏は「メディアは歴史的な使命を担っている」とした上で、「両国メディア間で、若者を中心に交流を深めることが重要である」との見解を示しました。

 塩崎氏は「お互いにもっと直接的な交流が必要である」と述べ、中日両国民同士が相互理解し合うことの必要性を説きました。

 高氏も、「日本人の83.5%は中国を訪れたことがなく、中国人に至っては98.3%が日本を訪れたことがない。相手国を知らないで行われている評価は国民の本当の気持ちだろうか。まずは民間交流が大事だと言いたい」との意見を述べました。

パネル討論の後、傍聴者を交えた質疑応答が行われました。

日本に歴史的な自己反省の意が見受けられない問題について、小倉氏は「垂直的思考である日本人」という観点から独自の見解を述べました。「中国人は歴史的な文脈の中で自分自身を考えることに慣れているが、日本の若者にはその習慣がない。中国人と日本人の国に対する感情や意識の差異が、このような問題を生んだのではないか」と答えました。

 続けて下村氏は、「今回のアンケート調査結果についてさほど悲観的に捉えなくても良い。むしろ日中の国交が重要であるという両国民の認識の高さに着目したい」と述べました。

また、高氏は「中国の若者は情報取得手段としてインターネットを日常的に多用していることから、中国側はインターネット上の意見が民意を反映していると考える。しかし、日本ではそうではない。情報圏の違いから偏った情報があるという事象をとらえた上で、様々な視点を加味して相互理解を深めていく必要がある」との見解を示しました。

最後に司会の園田・胡両氏は、「メディアによる情報は国交に反映され、国民感情を助長する。メディアの使命は両国の関係を正確かつ客観的に報道すること。前半の対話では共通の課題を相互協力で解決してゆこうという前向きな意見が出され、将来への希望を感じた。」と前向きで理性的な議論が出来たことを評価し合い、本会を締めくくりました。

文責:大沢理紗

親カテゴリ: 2012年 第8回
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