. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 第5回 北京-東京フォーラム 分科会 メディア対話11月2日速報記事(後半)

メディア対話速報記事後半①

司会・国分良成氏(慶應義塾大学法学部長、教授):

 後半は議論を中心に行います。
 まず前半について整理させていただきます。
 議論が分かれたこと:
①両国がお互いに持つイメージが悪化しているか、悪化してないか:日中間で温度差。
②世論調査の結果と現実の乖離
③世論とメディアの関係性

 1つ言いたいことがあります。
 今世界中の国際政治学は、コンストラクティビズムに基づいています。
 コンストラクティビズムとは、事実として起こったことは事実かも知れないが、国際関係を作るのは、事実をどう伝えるか、どう認識されるか、記憶されるか、記述されるか、が大事であって事実そのものではないという考えです。
 どう認識してるかというところから考えていくという、アメリカ、日本ではスタンダードな考え方です。
 メディアが、この記憶などに大きな役割を果たしています。
 つまり、メディアが歴史を作っているのだとも言えないことはないのです。

木村伊量氏(朝日新聞社ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長):

 前半の感想から申し上げます
 世論調査には意味があります。
 変わりそうで変わらないことがあったということが分かっただけでもよかったと思います。

 不思議に思うのは、四川大地震で日本の自衛隊が感謝されました。
 国分先生はこれで変わったと言いましたが、私はそうは思いません。

 歴史教育や軍国主義ということについて、ステレオタイプが存在するならば、そこにどうアプローチするかは大きな問題です。いきすぎた抗日戦争の報道などに対して、これからどのようにしていくべきかが重要です。
 南京大虐殺についても、両国同じように報道しているのかというとそうではありません。
 中国メディアは共産党の代弁者だというのは、日本人の多くは思っていて、自分もそれが抜けない部分がありますが、複眼的に見ているメディアもあります。
次のところにどう進んでいくかが大事です。

馬為公氏(中国国際放送局副総編集長):

 一部のパネリストがおっしゃったように、メディア=世論ではありません。
 四川大地震後は、中国メディアに大きな変化はありませんでした。
 地震の前から、日本のメディアは中国のメディアのことをよく知らないので、
 中国メディアを良く知ってもらおうと、イベントをやっていました。
 メディアが国民の相互理解を促すことは大切であると思います。

会田弘継氏(共同通信社編集委員・論説委員):

 4回目の参加ですが、僕自身は、日中のメディアの距離が近づきつつあるのではないかと思います。
 中国社会が発展していく必然の結果だと思います。
 今回のテーマは「メディアの責任」ですが、メディアが世論をリードするのでしょうか。
 僕は、メディアの責任は、人々が世界を理解する手助けをしているのではないかと思います。
 僕は事実を探り当てることに責任があって、人々がどう判断を下すのを待つのだと思うのです。
 去年、中国側は日本に世論をリードしていくように求められた気がしますが、今日はこのメディアと世論の関係をよく議論したいと思います。

張明新氏(中国新聞社副総編集長):

 私も中国新聞社に勤めています。
 会田さんの意見についてですが、私はメディアの報道は世論に影響を及ぼすと思います。テレビだけでありません。
 確かにここ数年で抗日戦争の映画やドラマが増えてきていますが、一部変化が起こっています。中国の映画ドラマの中で日本人の役者が出演しており、それによってか現実的な内容が増えており、抗日戦争の映画での表現力が高まっているのです。

 2つめは、相互信頼についてです。
 私は80年代は大学生でした。この時期日中関係はハネムーンでしたが、80年代後半から関係が曇ってきました。
 相互協力が大事だと思います。そしてこのフォーラムが大事であると思います。
 民間交流ではメディアが先にたたなくてはいけません。
 日本語版の中国新聞週刊なども出ています。
 インターネットなど、日本の近代的な発展も学ばなくていけないと思います。

飯田政之氏(読売新聞東京本社文化部長):

 メディアが責任を持っていることは当然です。
 9割が情報源を自国のメディアのニュースに依存しています。この「9割」を下げていく必要もあると思います。
 北海道の映画についてですが、このような映画は普通の報道以上にインパクトをもってるのではないかと思います。
 自分も小さいときに見た映画などで、イメージが形成されていることもあります。
 芥川賞を中国人の楊逸さんが受賞しました。
 東アジア文学フォーラムが北九州で始まって2回目の予定もあります。
 このように文化面での影響は見逃せなくなってきています。
 日本の地方には観光資源があります。中国人も日本の地方に足を運んでくれたらと思います。

呉長生氏(元人民日報社国際部主任、高級編集者):

 中日の相互理解を阻むものはあると思います。
 メディアはすべての責任は負いませんが、大きな責任があります。
 500万人の交流がありますが、これは全人口から見れば微々たる数です。
 やはりメディアからの情報が大きいといえます。

 まず、メディアは絶えず自らを調整しなくてはなりません。双方に認識の差はありますが、日本は過去と対話しなくてはいけません。変わりつつある現実も見なくてはいけません。両国の国民が誤解を起こさないよう、にメディアは自己規制する必要があります。

 次に、行動の面で実際に動かないといけません。今はネットがあります。これは貴重な基礎であり、交流のために重要です。ネットには多くの利用者がいますから、両国のインターネット利用者がお互い意見を発表できるサイトを作りたい思います。

山田孝男氏(毎日新聞政治部専門編集委員):

 報道の自由についてですが、以前中国で報道の自由があまりないといったときに、日本も同じことばかり報道すると言われました。
 報道の自由はどちらにあるのでしょうか。これは自由とは何かを問うことであります。
 中国は政府からの自由がない。
 日本は資本からの自由がない。日本は自由に見えますが、よく見るとどこの新聞社も同じ内容、新聞は部数を減らしたくない、テレビは視聴率を下げたくない。だから資本的な規制をされているといえます。

 メディアの責任とは、私の信じるところでは、有力な人、大勢の人が正しいと思ってたことでも、間違っていることは間違っていると指摘して信頼される機能だと思います。

原田誠氏(NHK国際放送局長):

 以前は外国メディアが中国の地方に取材するには許可が必要でしたが、今ではチベット以外は解禁されています。

 メディアの役割についてですが、「中国の人が何を考えて何を求めているのか」を伝えることも大きな仕事だと思って仕事をしてきました。
 都市と農村の問題、高齢化や少子化など抱えている問題は同じですので、共感を得られるものも多いのではないでしょうか。

メディア対話後半②

国分氏:

 問題をさらに提示します。
1つめは、「政治関係が安定したのに、なぜイメージが固定化されたままで好転しないのか」ということです。
2つめは山田さんのおっしゃった、メディアの「政府からの自由」と「資本からの自由」の2つの自由についてです。
 今、出版、マスコミ関係はすごく厳しく、商業主義だけを追求するメディアも存在しています。公共性を持ったメディアが大切です。「商業主義との関係をどうするか」、ここが経営にも直接関係する大きな問題です。

馬氏:

 インターネットで報道の自由があるかと中東で聞かれたことがあります。
 そのとき私は中国はとても自由な国だと言いました。
 アメリカやヨーロッパについてはハマスのサイトを見れません。
 私は責任を持って、報道の自由は異なる国で異なる理解があると言いたいです。

木村氏:

 我々がいつも悩むのが、読者という市場です。
 売れないといけませんが、売れればいいのかというとそうではありません。
 小泉劇場についても、政権交代についても、1つ1つの問題を冷静に見るのが重要であるし、公共性に資すると思います。

フロアから:

 私の経験をお話しします。
 卒業して日本に初めて旅行したときに、カルチャーショックを受けました。
 日本では、おじいさんやおばあさんやビジネスマンでもみんな漫画を読んでいたんです。この国は狂っていると思いました。
 そして私も漫画を手にとってみました。そしたら面白かった。日本人は狂ってないと思いました(笑)
 やはり自分の目で見て、中国人の立場に立って、日本人の立場に立って考えたりするのが大事だと思いました。

下村氏:

 聴者として質問です。
 「資本からの自由」「政府からの自由」との話ですが、日本のメディアは、権力を持った人をチェックすることが責任だと思います。
 読者が興味を持たないと売れないということを木村さんがおっしゃっていましたが、私は一番大きいのは広告だと思います。
 政治家の圧力は私は怖くありませんでした。企業が広告を出さないぞ、という方がよっぽど怖かったです。
 テレビが大衆迎合的になっています。これは負のスパイラルであり、資本主義の中のメディアの問題です。
 中国の今のメディアの状況について教えていただきたいです。

王氏:

 私はずっとメディア界で、経営も報道もしてきました。
 簡単に大衆に迎合してはいけないと思います。
 メディアの発展をささえる3要素として、①読者、②編集者、③スポンサーがあります。
 ①としては支持がないといけません。③は資金の出所です。②は編集者の使命・意図です。
 ①②③の3つの輪が重なる部分があって、ここの重なる部分がべストです。
 テーマを決める際にはこれら3者の需要を考えるべきです。
 バイアスがかかってしまうと報道は失敗すると思います。これは西側諸国も一緒です。
 メディアを運営する中でこの3要素を追求するのが正しいやり方であると思います。

メディア対話後半③

馬氏:

 私が先ほど言ったメディアは、新聞・ラジオ・テレビなど伝統的な古い形のメディアです。
 しかしいまや携帯電話など新しいメディアの形態が成功しています。
 しかし資金がなければ成り立ちません。
 最近のメディアは報道と製作を分ける傾向があり、大きな視野が必要です。

会田氏:

 資本主義では、より少ない悪を選びます。
 資本からよりも、政府からの自由を選んだ方がより少ない悪です。そういう政治システムを我々は選んだのです。

張氏:

 飯田氏の文化関係の話について、私も賛成です。
 日本の映画は印象深かったです。
 80年代と今の状況は似ていると思います。80年代は日本の俳優や映画にとても影響を受けました。
 私の娘は日本の漫画のファンで、夢は日本に言って漫画を買うことです。
 日本と中国の大型共同制作が昔は多かったのですが、今は少なくなっているので、もっと共同制作をした方がいいですね。

飯田氏:

 日本では不人気だから主張しないということはありません。
 中国メディアが変わりつつあるということですが、政府批判についてやはり規制があるのではないですか。
 もう少し中国もその批判を受けて、横綱相撲してほしいです。

角氏:

 共同通信社の人が中国で暴力を受けたことについて、マスコミがそのような恐怖を経験していいのでしょうか。
 私は絶対にあってはならないと思います。
 公安当局はそのような存在であっていいのですか。そうであれば私は中国をとても恐怖に感じます。
 こういうことは頻繁にあるのですか。

張氏:

 メディア対する政府の態度は明らかになっています。
 政府は取材の自由に関して変化しています。中国国内のメディアだけでなく、海外のメディアに対しても姿勢に変化があります。
 インターネットのフィッシング事件の暴露はその姿勢の変化の顕著な表れです。
 今は不足はあるかもしれませんが、暴力の振る舞いを許しているわけではなく、個別の事件としてあの事件は起こったのです。
 中国は変化しています。中国政府も暴力を許しているわけではありません。

黄氏:

 法律の執行ですので、そこは誤解しないでください。
 中国の警察は少数民族と外人については慎重に扱ってるはずです。

国分氏:

 3つ話します。

 1つめは、中国のメディアへの要求です。
 中国は大きく変わりました。世界は中国に注目しています。
 ジャーナリストの使命感も大きく変わってきました。
 記者や政治学者の楽しみは、政府・権力を批判することです。
 中国はもうグローバルパワーです。中国の動きは皆が見ています。
 過去からは変わりましたが、過去との違いを見ても仕方ありません。

 2つめは、日本のメディアへの要求です。
 日本のメディアは内向き傾向が激しいので、夢を持たせるような報道をしてほしい。
 日本がどんどん小さくなっていってしまいます。
 政権交代は日本では重要ですが、世界的には特に重要ではありません。もっと世界第3位としてのメディアとして、もっと国際性をもった報道をしてほしい。

 3つめは、メディアは謙虚であるべきということです。
 読者や国民は何を考えているのか、日中の互いに直接交流、特に観光をもっと増やすことが大切です。
 民主党政権は観光を増やそうとしているようですが、これはもっと促進してお互いの魅力を知っていくべきです。その一翼をメディアが担うべきだと思います。

親カテゴリ: 2009年 第5回
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