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【記事】 政治対話 後半

記事 政治対話 後半1

 8月30日13:30より、第6回東京-北京フォーラムの政治対話(後半)が開催されました。後半は、同日午前中に行われた前半に引き続き、「アジア、太平洋の未来と政治の責任~グローバリズムと国家の役割、アジアアイデンティティーとは何か~」をテーマとして議論が行われました。このセッションでは、分科会のなかでも特に、パネリストと会場の学生との議論を重視しています。

 日本側は松本健一氏(評論家、麗澤大学教授)が司会を務め、加藤紘一氏(衆議院議員、日中友好協会会長)、藤井裕久氏(衆議院議員、元財務大臣)、林芳正氏(参議院議員、元防衛大臣)、福山哲郎氏(内閣官房副長官、参議院議員)がパネリストとして参加、中国側司会は白岩松氏(中国中央電視台=CCTVキャスター)、李肇星氏(全国人民代表大会外事委員会主任委員、前中国外交部長)、趙啓正氏(中国人民政治協商会議全国委員会外事委員会主任)、呉建民氏(中国外交部政策諮問委員会委員)が参加しました。

 まず、松本氏は「昨年の政権交代によって、これまでの日本政治の大きな流れが変わり、民主党は外交政策においてアジア重視の考え方を明確に打ち出した。このフォーラムも、日中両国が2国間だけではなく、アジアの未来をどう描くかを考えるフォーラムにしていかなければならない」として本フォーラムの意義を述べ、その後各パネリストによる発言がなされました。

 藤井氏は、「日中両国の友好の前提として、日本が中国に対して加害者であるという認識を持たなければならない」との持論を述べ、その上で、常に対立点があったヨーロッパがEUという形でそれを乗り越えてきたのと同じように、日中も偏屈なナショナリズムに陥ることなく未来に向けての議論をすべきだ、2000年もの相互交流のなかに多くある共通点を重視していこう、と述べました。

 李肇星氏は、150名近い学生を前に、「多くの若い学生にたくさんのことを学ばせてもらいたい」と述べ、「中日両国は戦争の被害を受けた経験を持ち、平和を愛し、平和を望んでいる点で共通している。また、文化面でも共通のバックグランドが多い。2000年の長い交流のなかで不幸な歴史は50年だけだ。お互いに相手に学び、両国関係をさらに発展させたい」としました。

 続いて加藤氏は、「脱亜入欧」を掲げた明治の日本からの変化に触れ、参加する学生に「いまこそ『脱亜入欧』に代わる新しい標語を皆さん自身が考えてほしい」と訴えました。そして、「中国の経済的台頭は、日本にとって決して不利なことではない。それぞれのよさを認め合う健全なナショナリズムが求められている」と述べました。

 趙啓正氏は、「両国民は歴史を忘れてはいけないが、そこを起点に考えると友好は発展しない」と述べ、未来志向で両国関係の発展を目指すべきとしました。また、「アジアはEUに学べと皆が言うが、アジア独自のアイデンティティを明確にする必要がある。これからの両国をになう若者のである皆さんこそに、これからの繁栄のために、アジアのアイデンティティを考えていただきたい」として、学生に対して大きな期待を述べました。

 中国側最後の挨拶として、呉建民氏は、「輸出主導による日本の戦後の発展は、中国の発展にとっても重要なヒントを示してくれてきた」としつつ、21世紀のアジアの時代においては、これをベースに、世界のどの地域もがwin-winの関係になれるような発展の方法を模索しなければならないとしました。

 次に林氏は今後の日米中関係について触れ、安全保障、経済というふたつの軸で立体的にこれを考える必要があると指摘しました。安全保障については、米国との関係が日中両国にとって重要であり、「それをベースとした確固たる三角関係があってこそ、安心して経済協力を深化できる」と述べました。その上で、両国間で知的財産権の保護など基本的ルールの整備を推進する必要性を訴えるとともに、映画やアニメなど文化的コンテンツの共同制作など、文化的な共同作業が安全保障面も安定させる可能性を指摘しました。

 最後に、福山氏は、「菅政権になっても、東アジア共同体の推進を含む日本の外交政策に大きな変更はない。外交は相対的なものであり、ゼロサムではない。いま日中はそれぞれが協力できる分野を現実的に推進できるステージに入っている。たとえば北朝鮮問題など、中国にも国際的に応分な責任を果たしていただくことが北米アジアの安全保障にも役立つ。さらなる相互協力のために議論を深めたい」と述べました。

 その後、学生からの質問を募り、それをもとに会場で議論が行われました。「どうすれば、過去100年間の中国の立ち遅れたイメージを変えていけるか」という学生の問に対し、呉建民氏は「まだまだ古い中国のイメージが残っているが、徐々にこの遅れたイメージから発展している。海外資産が少なく、1人当たりのGDPも少ないなど、実際には多くの問題がある。しかし、焦らずに時間をかければそのイメージは改善されていくだろう」と回答しました。

 「隣国との対立をあおるナショナリズムがある」との前半の加藤氏の発言について、学生からは「中国人の方がナショナリズムに寛容なのか」との質問がなされました。これに対して加藤氏は、「上海万博で日本の展示を訪れる人の95%は中国人と聞いて、嬉しかった。相手を認めないという点では、日本人の方が自信を失い、頑なになっているのかもしれない。」と述べ、日本は科学技術などより自信を持てる分野を強化すべきとしました。

 「中国のインターネット上での日本や米国に対する情緒的な発言についてどう思うか」との問いに対しては、趙啓正氏は「中国には4億人のネットユーザーがおり、批判的な言論を繰り返す人もたしかにいる。日本でも一部のネットユーザーはそうだろう。しかし、たとえば四川省大地震の際に、日本の救援チームが犠牲者を追悼したことに中国人は大いに感動するなど、ネットの言論が中国の主流な見方にはなっていない。中日両国関係にはそれぞれの国民一人ひとりに責任があるとともに、とりわけ両国の(伝統的)メディアの責任が重要である」と指摘しました。

 学生から寄せられた質問については、発言録にて全て公開しています。また、時間の関係で扱うことができなかった質問についても、言論NPO公式サイト等にて公表する予定です。

親カテゴリ: 2010年 第6回
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